精油が心身に作用するメカニズム

精油は2つのルートを経て、心身に作用します。アロマテラピーを安全に役立てるために、精油が心身に働きかけるメカニズムを知りましょう。

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精油は心身に働く2つのルート

アロマテラピーはその心地よい芳香で心身をリラックスさせたり、不調を緩和するなど、様々な場面で役立てることができます。では、精油は具体的には、どのように心身に働きかけるのでしょうか。

精油が身体に作用する際、大きく分けて、2つの経路があります。1つは嗅覚器から脳へと伝わる経路。そして、皮膚などから身体へ伝わる経路です。

鼻から脳に伝わる速さ

香りのは刺激が脳に伝わるまでにかかる時間は、0.2秒以下と言われます。歯痛などを感じるのに要する0.9秒より、はるかに速く伝わるのです。

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嗅覚器から脳へ伝わるルート

では、1つ目の嗅覚からの脳へと伝わるルートについて詳しく見ていきましょう。人間が精油を始めとする様々なものの匂いを感じるのは、匂いが電気的信号(インパルス)となって、鼻から脳へ伝わるからです。嗅覚情報の伝達ルートは、大まかに以下のようになっています。

例えば精油の香りを嗅ぐと、香りの分子が鼻の内部奥上側にある嗅上皮の粘液に付着します。すると、嗅毛と呼ばれる繊毛が反応し、その刺激が、嗅細胞の中心部へと伝えられるのです。

この刺激はさらにインパルスに変換され、嗅神経を通り、脳の一部である嗅球を通して大脳へと送られます。ここで初めて、脳で香りとして認識されるわけです。香りを感じる強さは、発生するインパルスの数によって決まります。

嗅球に届いたインパルスが脳へと至る経路にも二通りあると言われています。一つは、視床、視床下部などを経て大脳新皮質へと伝わるルート。もう一つは、大脳辺縁系に伝わるルートです。

嗅細胞

鼻の嗅上皮に多数存在する細胞。嗅覚を受容する嗅覚器である。数ミクロンの細胞体、嗅上皮表面へ延びる突起、嗅球へと延びる直系0.2ミクロンの神経線維から成る。

大脳辺縁系・視床下部と香り

大脳辺縁系は脳の中でも、感情、欲求などを司る他、記憶や自律神経の働きなど、身体の基本的な機能に関わる部分の総称です。海馬、扁桃体なども大脳辺縁系に含まれます。

香りの情報は脳の様々な部分に作用しますが、中でも視床下部は香りの影響を強く受けることが分かっています。視床下部は身体の調節を行う自律神経系を司る他、食欲、性欲などを調節している重要な部分です。

大脳辺縁系

大脳のうち、身体の基本的な機能を司る部分。感情や欲求に関与することから、情動脳とも呼ばれる。

自律神経

生命の活動を保っていくために、自動的に働く(自立している)神経。心臓を動かすことをはじめ、食べ物の消化や体温の調節などは自律神経の働き。

自律神経は、目覚めているときや興奮しているときに優位になる交感神経と、眠っているときやリラックスしているときに優位になる副交感神経の2つからなり、このバランスが健康や体調に大きく関わる。

このバランスが崩れてしまうのが自律神経失調症と呼ばれる症状。

  • 海馬
    大脳辺縁系の中でも、記憶の処理に関わる部位。香りの情報はこの海馬を含む大脳辺縁系を経て判断される。香りを嗅ぐと忘れていた記憶を思い出すことはよく知られている。
  • 扁桃体
    大脳辺縁系の中でも、快・不快・好き・嫌いと言った情動をつかさどる部位。
  • 視床下部
    自律神経の働きを司る部分。生命の維持や恒常性の働きに関わる。またホルモン分泌を行う下垂体と密接に関わっている。

香りと恒常性の関係

人間の身体には、体温などの体内の状態を常に同じ状態に保とうとする、恒常性というシステムが備わっています。この恒常性の働きにも、香りが良い作用をもたらします。

アロマテラピーで好きな香りを嗅ぐと、心地よいと感じたり、疲れが取れてリラックスしたりします。香りの情報が大脳辺縁系や視床下部により情報として伝わって自律神経に作用するため、恒常性を維持するのに役立つのです。

恒常性

身体の内部を一定の状態に保つためのシステム。ホメオスタシスとも呼ばれる。動物は寒い時は震え、暑い時は発汗するなどして体温を保っているが、これも恒常性の働きによるもの。

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心身のバランスとアロマテラピー

人間は、日中に活発に働き、夜は眠るというように、緊張とリラックスを行ったり来たりしながら、体内のリズムを作っています。このバランスをとっているのが、自律神経です。

ただし現代ではパソコンやスマホが使用、不規則な生活などの理由で緊張過多になりがちです。

アロマテラピーは自立神経に働きかけ、緊張とリラックスのバランスを健やかな状態に保つのに役立ちます。

皮膚などから身体へ伝わるルート

皮膚から伝わるルート

精油が身体に作用する際の、もう一つのルートが皮膚などを経るルートです。皮膚は細菌や水などの異物が体内に侵入しないようにバリアすることが主な働きの、人体で最大の臓器です。

精油成分は分子構造が小さく、また油に馴染む親油性であるため、バリアである表皮を通過することができます。

精油を使ったトリートメントでは、精油を植物油で薄めて皮膚に塗ることで、精油成分を緩やかに皮膚に浸透させます。湿布法においても同様に、精油が穏やかに皮膚に浸透します。

精油の性質に応じて、皮膚の内部で水分量を保ったり、痛みを和らげるなど、身体に様々な作用を及ぼします。

皮膚の他に、呼吸器、消化器などからも精油成分が吸収されます。

皮膚のバリア機能

皮膚には、肌の潤いを維持し、外部からの異物の侵入を防止する役目があります。皮脂膜の油分により水分の蒸発を防ぐ他、角質層の細胞間脂質に含むセラミドという成分によって水分を保持しているのです。

呼吸器からのルート

呼吸器とは鼻や咽頭、気管、肺など、呼吸に関わる器官を指します。精油の香りを嗅ぐと、その成分の一部は呼吸によって呼吸器に取り込まれ、血流にのって体内の器官や組織を循環したのち代謝されます。

代謝とは、身体に取り込んだ物質を、体内で利用できる形に変換したり、不要なものを排出したりすることを言います。身体に取り込まれた精油成分は、最後には肝臓などで処理され、不要なものは体外に排出されます。

代謝

食物摂取や呼吸などによって体内に取り込んだ物質を分解したり、反対に合成したりする働き。これにより栄養素をエネルギーや身体の構成成分として利用したり、いらないものを老廃物として排出したりできる。

消火器からのルート

消火器は、口から始まり、胃、腸、肝臓など食物の消化や吸収に要する臓器を指します。精油を口から取り入れた場合、その成分は口内や食道、胃、小腸といった器官の粘膜から血管へ浸透し、血液循環によって身体へ作用することになります。

しかし、精油を口から取り入れる方法は、皮膚よりもさらに敏感な粘膜に対し、刺激や毒性を与えたり、代謝できない成分が肝臓や腎臓に止まり、体内に害を与える危険性があります。誤飲をするなどして大量の精油成分が体内に入り、身体に害を及ぼす可能性もあります。

そのため、精油を飲む、ほかの食物と一緒に摂取する、うがいをすると言った利用法は、公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)ではすすめていません。

血液循環

血液は心臓の鼓動によって送り出され、常に一方向に循環します。また、皮膚から浸透した精油成分は血管のほか、リンパ管に取り込まれ、リンパの流れに乗って体内に働きかけています。

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