中世には、イスラム世界やヨーロッパ世界で近代・現代医学の基礎が作られました。また、アロマテラピーにとって重要な蒸留技術も生まれました。
アラビア・イスラム世界
ギリシャやローマで誕生・発展した医学や哲学は、イスラム帝国へと継承され、さらに深まります。
ヒポクラテスやガレノスの著書を元に、中近東、エジプト、インド、中国など周辺地域の医学的知識が合わさって成立したのがユナニ医学です。
ギリシャで発症したことからユナニ(アラビア語でギリシャの意味)と呼ばれますが、現在でもイスラム文化圏で取り入れられている代表的な伝統医療の一つです。
8世紀から12世紀にかけてアラビア医学や化学はおおいに発達し、アルコールの発明、アラビア式蒸留法の確立などもなされました。
医師であり、哲学者でもあったイブン・シーナは、ローズウォーターなどの芳香蒸留水を治療に活用しました。また著書である「医学典範(カノン)」は後にヨーロッパにも伝わることになります。
芳香蒸留水
水蒸気蒸留法で精油を得る際の副産物が芳香蒸留水ですが、イスラム帝国時代は芳香蒸留水を得るために蒸留が行われました。
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中世ヨーロッパ
僧院医学の発達
キリスト教中心の中世ヨーロッパでは、医学といえば「僧院医学(修道院医学)」が主流でした。修道院内で薬草が栽培され、治療に用いられたほか、修道士たちによって医療が研究され、知識が蓄えられたのです。
中世ドイツの修道女ヒルデガルトはハーブを用いた治療法に関する著書を残し、ドイツにおける植物学の発達に貢献しました。
薬草の採取や保存方法の他、ラベンダーの効能についてなど、現在にも十分に通用する内容を記しています。
十字軍の遠征と医学校の創設
11世紀末から約200年にわたり、十字軍の遠征が行われました。これは、医療、薬草研究の発展とも深く関係しています。
十字軍は交通網を整備し、都市の活動を活発にした他、イスラム世界から様々な文化を持ち帰ってきました。
イスラム世界に伝わっていたヒポクラテスやガレノスの著書もヨーロッパで翻訳され、読まれるようになりました。同時に伝えられた蒸留の技術も、西欧の香り文化に大きな影響を与えました。
十字軍の影響による都市の発展を背景に、現代に通じる医学を教える医学校も開設されました。代表的なのがサレルノやモンペリエの学校で、この二つは後に医科大学となります。
一方で当時のヨーロッパに暗い影を投げかけたのがベスト(黒死病)の流行です。植物の芳香はその対策の一つとして活用されました。
薬効のある植物を燻蒸(いぶすこと)して人の集まる場所を清めたり、クローブなどを詰めたポマンダーを魔除けとして身につけるなどの方法で、病を遠ざけようとしました。
十字軍の遠征
11世紀末に聖地エルサレムがイスラム教徒に占領されたことに端を発し、聖地奪還を求めてヨーロッパのキリスト教諸国がイスラムに派遣した遠征軍。約200年にわたって複数回行われたため東西交流を促進した。
ポマンダー
オレンジなどの果実にグローブをさして乾燥させたフルーツポマンダーは今も手作りで楽しまれています。
ハンガリアン・ウォーター
14世紀頃、ローズマリーとアルコールが主成分の「ハンガリアン・ウォーター」が流行しました。ネーミングはハンガリー王妃に献上されたことに由来しますが、70代の女王がポーランドの王子に求婚されたなどの逸話もあり「若返りの水」として評判になりました。